USJ復活の仕掛け人ーー森岡毅「確率思考の戦略論」マーケターの勇気と情熱に触れられる良書です。

15/04/2019

こんにちは、tikoです。

この度、「確率思考の戦略論」という本を読みました。

タイトルからして、物凄く堅苦しくてとっつきにくい印象を受けますよね。内容も、数学をマーケティングに実践するという、数学が苦手な人は悲鳴を上げそうなものです。

しかしその実、私の印象は「努力、友情、勝利」の原則に従った、血沸き肉躍る少年漫画のようなストーリー!でした。

「確率」という武器を使って、現代のビジネスを戦っていく。そんな人間ドラマは非常に示唆に富んでいて、私に大いにヒントと勇気を与えてくれました。

非常に面白く、また学ぶべきところも多く、間違いなく人生必読の本です。特にあなたが、ビジネスをドライブしていくならなおさらです。

タイトルと表紙の第一印象で避けるのは非常にもったいないです(そういう意味では、表紙とタイトルもちょっともったいないように思えてしまいます。笑)。

劇的な人間ドラマと、現実に巨大組織を成功に導いたトップレベルの組織的な意思決定の方法が学べます。特に後者は、あなたが仕掛け人ならば大いに関係のあることです。

確率思考の戦略論のライブ感、エキサイティングな点について!

この本は森岡毅さんというマーケターのノンフィクションで、実際に起こった出来事が語られていきます。

あなたもおそらく(ほぼ確実に)ご存じなのではないかと思います・・・

2010年、伸び悩んでいたUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の集客をV字回復させ、そこから2015年の5年間で、3倍もの人口圏に立地し圧倒的な人気を博している国内テーマパークのガリバー、ディズニーランドの月間集客数を追い越してしまった、という出来事を。

私は当時、関西圏に住んでいたので、2010年前後のUSJの状況は実際に見て知っていましたし、その後の物凄い回復と勢いも、様々な媒体を通して見てきました。

その変わりようは本当に「衝撃的」で、まさにマジックです。USJは今や世界中から注目されるテーマパークですので、文字通り世界を驚嘆させたと言っても過言ではないでしょう。

この「変貌」は、ひとえにUSJ社の的確な経営判断と、地道な企業努力のもとに成り立っていることは言うまでもないのですが、その経営戦略を立案、実行し、それらにことごとく勝利し、真っ直ぐに会社を成功に導いてきたまさに”立役者”が、この本の著者である森岡毅さんなのです。

「確率思考の戦略論」には、実際にこの4年間、彼がマーケターとしてどのようなことを思考し、計画し、そして実行してきたのかが、森岡さんご自身の言葉で生々しく暴露されています。

実際に見知っているUSJの出来事だからこそ、「ああ、あの時話題になったあのアトラクションの企画の内部ではこんな風だったのか!」と、自前の記憶と繋がりスパークすることが沢山ありました。

また、森岡さん自身が元いた組織、P&Gでの盟友である今西さんをヘッドハントしにいく話やマーケティング予測を見せ合うやり取りであったり、実現した打倒ディズニーランドの論拠など、まさに友情と勝利です。

ものすごいライブ感と、親しみやすい語り口で、グイグイと引き込まれていきました。

そして、忘れてはならない努力の部分も、余すところなく語られています。頭脳労働者の努力、とでも言いましょうか。

「この本の目的は、日本の会社のマーケティングの技能アップへの寄与」であると作中で明言されている通り、またそのメインの内容は実践的な数学的マス・マーケティングだったり統計アナリストノウハウであったりするので、私の視点はそれとは少しズレたものになってしまうのかも知れませんが・・・

私が何より「面白い」そして「エキサイティングだ」と感じたのは、著者の内面の思考や苦悩であったり、葛藤や成功体験といった”マーケター森岡毅の心の動き”をも濃密に語られているという点です。

印象的な一節を引用します。

30回も40回も勝ち続けなければならなかった戦いにおいて、私は「アート」なんて言っていたら発狂しそうな恐怖を何度も何度も経験してきました。脳細胞の1つ1つがパンクしそうになるぐらい考え抜いて、合理性をできるだけ大きくし、マーケティングを限りなくサイエンスに近づけた。

悔しさで眠れずに、夜中に車で山の上に行って車内で絶叫したことも何度もありました。悪夢で目が覚めて眠れない時は、日本刀を眺めては自分の弱さと戦っていました。

いかがでしょうか。私はこういったある意味「泥臭い」話を聞くと、その方のナマの心の動きや息遣いのようなものが感じられ、非常に臨場感が高まります。

余談ですが、森岡さんは現在「株式会社刀」というマーケティングカンパニーを立ち上げ率いています。会社名にも入れられているあたり、余程の日本刀好きなのでしょうね。作中では森岡さんの日本愛についても、随所で語られています。

どのように活かすか?

テーマパークのトップの一員として、巨大資本を元に社運をかけた投資を行い、成功に導く。これだけ書くと壮大すぎて、とても自分と同じ世界にいる人だとは思えません。

でも、この本を読んでいくと気づくはずです。森岡さんも一人の人間であることに。

・脳細胞の一つ一つがパンクしそうになるまで考え抜いた
・気が狂いそうになるほどの恐怖感とプレッシャーを感じた

これら個々のエピソードから、外から見ると途方もなく遠大に見える物語にも、一つ一つの部があり、章があり、小節があり、それぞれに対する思考と決断、行動があることがわかります。

森岡さんは、その小節(パラグラフ)から、数学的マーケティングというメガネを用いて、文脈を読み取り、展開を予測して、ただ一人の人間としてできることを積み上げていったのです。

その終末は、どこまで行こうとも人間が予測して、人間が編み上げて行った物語の結末なわけです。

そこに特殊な能力や魔法は使われていません。2つの目と2つの耳、10本の指があって、2本の足があることに、私たちはなんの違いもありません。

身体機能をハードとするならば、違うのはソフト、思考の部分だけです。

思考から行動が変わり、行動から結果が変わるということを、ありありと思い起こさせてくれる名著です。

ぜひ、この本を手にとって頂き、人を魅せる「熱さ」について体感して頂きたいと思います。