ヒグチユウコ「せかいいちのねこ」新生グッチも唸らせる、奇妙でありながらも可愛らしい稀有な世界。

29/08/2019

こんにちは、tikoです。

今回はブックレビュー、ヒグチユウコさんの絵本「せかいいちのねこ」です。

ヒグチユウコさんは東京を拠点として世界的に活躍されている女性画家で、主に猫をモチーフとした可愛らしくも奇妙なイラストレーションで高い人気を博しています。

かのアパレルブランドGUCCIが、アレッサンドロ・ミケーレという新しいクリエイティブディレクターを筆頭に、ここ数年で見違えるような変貌を遂げてきていることはご存知でしょうか。

じわじわと右肩下がりになっていた経営状態の危機に直面し、2015年にCEOに就任したマルコ・ビッザーリが抜擢したのがこのアレッサンドロ・ミケーレです。

彼はこれまでのGUCCIのブランドを刷新し、世界中のセレブリティを虜にしました。

それに伴い、経営状態も見事にV字回復を達成。

長きにわたる歴史を持つ企業の思い切った改革には、想像もつかぬような様々な障害があったことと思います。

しかし現実に、障害を乗り越え、ビジョンを実現して成功を掴んでいるという点には、リアルタイム性のある血の通ったドラマを感じさせますね。

話が横道にそれていってしまったので、もとに戻しまして・・・

ヒグチユウコさんはGUCCIが新体制になって以降、現在までにコラボレーションを行った唯一の日本人であり、そのデザイン性や世界観は、間違いなく今もっとも世界中が注目するものでしょう。

今回は、彼女の絵本「せかいいちのねこ」を読んでいき、得られたものについてシェアをしたいと思います。

強烈に迫ってくるような絵柄

まず何をおいても、この絵本の魅力はその絵柄にあります。

強烈に迫ってくるのか、あるいは惹き付けられているのか、一度目にして脳がその映像情報を認識するほどに、強く刻みつけられていくような感覚があるのです。

登場人物は主人公のぬいぐるみであるニャンコを除き、全てがネコです。

これらのネコたちは実際に実在するモデル猫がおり、絵本の最後にエンドロール的に彼らが登場するのですが、彼らのことをとても緻密に、正確に模写しているのがわかります。

でも、絵本の中の登場人(猫?)物はみな、人間のように服を着て、二足歩行し、椅子に座ってお茶を飲んだりします。

写実的でありながら、イラスト的でもあり、その奇妙なバランス感覚は是非一度、絵本を手にとって実際に眺めてみて頂きたいですね。

さらに彼らは、人間のように驚いたり、怒ったり、ひらめいたり、笑ったり、涙を流して悲しんだりもします。

これも本記事でご紹介できないのがとても残念ですが、非常にコミカルでかわいらしいのに、要所では心をえぐるかのように琴線に触れます。

わたしも動物を飼っていた経験があるのでわかりますが、彼らはほんとうに人間のような表情をするときがあるんですね。

そんな、現実にはありえないようなネコの表情や仕草を、とても不思議なバランスで絵本の世界として描き出している。

実に魅せてくる絵柄です。

可愛らしく優しいストーリー(ほんのりネタバレを含みます。)

ちょっと不思議だけど、おかしくて可愛らしくて、ポカポカと心があたたまるような優しいストーリーです。

自分を「せかいいちしあわせなぬいぐるみ」とした上で、それを失うことを恐れている、ちょっと心配性のニャンコ。

この絵本の筋書きは、彼が勇気を出して、ずっとずっと持ち主の男の子にかわいがってもらえるように「とある魔法」を探しに行く物語です。

その冒険の中には、さまざまな障害と、思いも寄らない出会いがありました・・

突き抜けるような明るさはありませんが、全編を通して平和で、最後は染み入るような切なさがあります。

一方的にいじわるだと思いこんで、ずっと話もしてこなかった同居人のいじわるねこ。

彼は冒険の途中で、それほどいじわるではなかったことが判明するのですが・・・最後まで、その呼び名は「いじわるネコ」のまま。笑

ともあれ、ニャンコはいじわるネコも自分と同じ不安を抱えていたことを知ります。

そして、あらためて自分が、それまでに出会ったネコたちも含めて「せかいいちのねこ」だったことに気付くのです。

この印象的なラストシーンだったり、最初に自分を幸せであると認識していたりする点など、わたしが大切にしている「もともと備わっている自分の、ホンモノの輝きに気付こう」という想いと深く共鳴するものがあると感じました。

わたしの3歳の娘にはまだ早すぎたようですが・・笑

ぜひ、もう少し大きくなってからまた一緒に読みたい本のひとつとなりました。

ヒグチユウコさんは大切にしているモチーフが非常にわかりやすく、猫・茸・蛸や花などがそう(彼女のホームページにも頻繁に登場しています)なのですが、それが随所に散りばめられています。

文章と絵の配置にも工夫が見られ、パラパラと読んでいくだけでもデザインの勉強になると思います。

装丁も面白いですしね。

以前読んだ「変人偏屈列伝」を彷彿とさせるカバーだと思いました。

「変人偏屈列伝」奇妙な行いに対する、奇妙な共感や勇気。溢れ出るブランド感。

是非参考にしたいのは、また別の作品も読んでみたいと思わせる魔力。

もっと、この人の描く世界に深く浸ってみたい、と思わせるような、とりこにする力ですね。

もう少しだけお話をすると、GUCCIとヒグチユウコのコラボレーションサイトも非常に凝っていて面白いです。

ここからGUCCIの世界観にも触れられ、それぞれの世界観の共通項や違いがわかり、お互いがお互いを引き立てあうのです。

これが世界を渡るときに発生する力であり、コラボレーションの真骨頂です。

是非、このあたりも大いに、参考にしていきましょう。