「変人偏屈列伝」奇妙な行いに対する、奇妙な共感や勇気。溢れ出るブランド感。

こんにちは、tikoです。

変人偏屈列伝」という漫画を読みました。

一言で言えばまさに「奇書」・・偉人伝と呼ぶにはあまりにも異質な人々の生涯を描いた本で、全部で6人の主人公の物語がオムニバス形式で収録されています。

特筆すべき点は、登場する主人公はすべて実在の人物で、実話を元に作られたリアルストーリーであるということ。

中々にマニアックな作品で、万人に進められる内容ではありませんが、「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦さんが作者の一人として関わった本であり、ファンであれば読んでみても面白いと思います。

今回はレビューを通して、この奇作の魅力をお伝えしていくとともに、いっけん教材とはしにくいような内容であるからこそ、情報発信の学びを効果的に得られるようになる練習には適したものですので、そちらについても触れていこうと思います。

変人偏屈な人を眺めるときの、わたしたちの集中力

この本に出てくる主人公はほぼ全てが「変人偏屈」であって、人として誰もが尊敬できる人格を持っていたわけではなく、むしろ逆です。

人から嫌われる、不気味がられる、怒りを感じられる・・・といった、ネガティブな感情を持たれる人ばかり。

その人の生まれ持った性質や、育った環境のせいもあるでしょうが、彼らの一番目立つ表面的なイメージはそんな悪い部分であり、素直には感動したり学びを得られたりはしない、なんとも偏屈な内容となっています。

しかし彼らはただひたすらに何かを信じ、何かと戦い続けるということを一生涯に渡り行う人たちです。そこには根源的に、見る人の心を捉えて離さない、人並み外れた情熱が存在します。

「目が離せなくなってしまう、悪魔的な何か」と言ってもいいでしょうね。

人の好奇心を強く惹きつける、規格外の情熱。ここには今後必ず需要の高まっていく「面白さ」という価値をつくっていくためのヒントが、ふんだんに盛り込まれています。

存命の実在人物であり、エピソードの一つに収録されている「康芳夫」編などは、この好奇心をテーマとしたストーリーに仕上げられており、上に書いたようなメタ的(話の中ではなく、枠の外から見た)な視点でも楽しむことができます。

歴史の表舞台にはあまり出ることがない、第一級の奇人変人達・・・ですが、情熱の総量という視点を持って見れば、人格の良否はあるものの、教科書に乗っているような偉人たちとそう変わらない見方をすることもできます。

言ってみればこれは彼らのスピンオフの物語であって、彼らを主人公とした話をこうして作ることができるのなら、わたしやあなたの物語を作ることもまた、同じように可能なのです。

問題は魅せ方ひとつ。表現の手法だったり、スポットライトの当て方、選択するBGMを変えることによって、誰の人生であっても、見る人の心を打ち、捉えて離さないようなキラーコンテンツに演出することができます。

たいせつなのは、心に宿る情熱のありかを探る姿勢と、それを正しく認識し表現する伝え方です。

「たとえ平凡であっても、人の人生を見ることはおもしろい」といった漫画家もいるとおり、人生のワンシーンを魅力的に再定義し、ユニークでドラマチックなものに仕立てあげられるように腕を磨きましょう。

一瞬で伝える「ブランド」の力

これは全編に渡って言えることですが、荒木飛呂彦さんのブランドを伝える力が凄いです。

6話中4話が、鬼窪さんと藤井さんという漫画家の方が作画を担当しているのですが、絵が違ってもこんこんと湧き出るジョジョ感。構成、展開などの雰囲気から、荒木飛呂彦節を感じずにはいられません。

このお二方、当時のアシスタントというから当然といえば当然なのですが、圧倒的なスリルや、ちょっとエグいくらいの気持ち悪さ、不気味なキャラクターの立ち加減など、絵が変わってもありありと分かるのがとても興味深いです。

その最たるものが、台詞回し。

以前ちょっとネット上でも話題にはなっていたようですが、本作の中でもまだ偉人伝に近く、大衆寄りのエピソード「ニコラ・テスラ」編での、エジソンとの以下のやり取りがまさにそれを体現していますので、引用します。

エジソン「いいかテスラ!おれの会社でこんな非実用的なものを作るんじゃあない!誰がこんな危険な電気を使うんだ このスカタン野郎がアーッ」

「高圧線が切れたりしてみろッ!大勢の人間が死ぬぞッ!きさまのやっていることはイナズマと同じ悪魔の電気だッ!」

テスラ「い・・・いやだーーーーー これからはこのテスラの交流の時代が来るーっ」

エジソン「ほざくかッ!テスラーッ」

テスラ「殴られたってやめないぞエジソン!」

引用元:変人偏屈列伝「エジソンを震え上がらせた大天才ニコラ・テスラ」より

もうこのテキストだけで「それっぽい」と感じませんか?まあ「スカタン野郎」とかって他の場所で見かけたことがないくらいに、強烈に独特なパワーワードですが・・・苦笑

こういったパワーワードを無理につくる必要はありませんが、私達情報発信者は何かしらの方法で、短時間で自分を識別してもらうための方法を模索していく必要があると思います。

「これだけでその人と一発でわかる」ことには、強烈なブランドの力の秘密があって、アイコンやロゴ、CMで流れる専用の音楽やアニメーションなどは、人の脳にくさびを打つ、という点でこれに類するところです。

ステージ・パフォーマンスの世界でも、その人の顔を隠しても、もしくは棒人間のように単純化しても、動きや技で「その人とわかるような演技」ができるように追求していくことで、オリジナリティを出す練習をしたりしていました。

人に見られている意識はいつでも胸元にたずさえておきたいものです。

そうなると本のビジュアル的な部分にも話が膨らんでしまうのですが、そもそも装丁からしてユニークでカッコいいんですよね、この本。

古めかしい百科事典並みにゴツくて分厚くて、おじいちゃんの家の本棚の一番深いところに眠っているかのようですが、よく見るとなんとも異様でエキゾチックな迫力を放っています。

ゴテゴテとした、極彩色のヘビ革柄が覆い、カバーには切り欠きがしてあって、タイトルとウィンチェスター夫人がその切り欠きからのぞいていたり・・・(表紙に美人どころを持ってくるのは、やはり華という戦略眼からでしょうか。笑)

タイトリングと表紙だけでも、この作品の異質ぶりが遺憾なく表現されています。そんなブランドを観察する視点から見ても、面白い題材だと思います。

「変人偏屈列伝」の、恐らく史上初であろうビジネス的な分析でした。ストレートな自己啓発書などとは一線を画す、奇妙な題材ですので、もし興味が湧いたら読んでみて、ぜひ感想をお聞かせ下さいね。