エリック・カール作「えをかくかくかく」抑圧をふりほどき、駆けていく青い馬。

こんにちは、tikoです。
「はらぺこあおむし」で世界的に有名なエリック・カールの絵本「えを かく かく かく」を、妻と娘と一緒に読んでいます。
エリック・カールは家族みんな大好きな絵本作家さんで、うちには彼の絵本が多数あり、私も事あるごとに娘にせがまれて読みきかせをしたり、ひとりでも手にとって読んだりしています。
「色彩の魔術師」といわれる通り、彼はそのみずみずしく躍動感あふれる画風でよく知られています。また、ギミックや特殊な印刷技術を好み、多種多様な工夫でもって読み手をとことんまで楽しませようとするエンターテイナーでもあります。
今回のコーヒーブレイクで取り上げる「えを かく かく かく」には、彼の少年時代のある経験をもとにした興味深い背景が隠されており、現代の表現者であるわたしたち情報発信者にとっても、非常に示唆に富んだ内容になっています。
非常にエネルギッシュな、かわった動物たち
この絵本の魅力は、第一にエリックの得意なコラージュ技法でつぎつぎと描かれる、圧巻の動物たちです。
エリックの描く動物は、非常にダイナミックでありながら繊細なリアリティを備えており、生き物に対しての愛着ある観察眼が見て取れます。
大判の見開きでドドンと見られるので、さながら画集のようです。その迫力ときたら!
動物たちの絵を眺めているだけでも、清潔なエネルギーが供給されてくるようで、これだけでもオススメなのですが・・本作のポイントは、この動物たちの色です。
青い馬、緑のライオン、紫のキツネ。なかなかお目にかかれないような、不思議な色をしています。
なぜ、このような色が使われているのか?この秘密は、原題「The Artist Who Painted a Blue Horse(青い馬を描いた絵描き)」の通り、彼の少年時代にさかのぼります。
ナチスドイツによって禁じられた美術
時は1941年。エリック・カールはニューヨークの都会生まれでしたが、両親とドイツのシュツットガルトで暮らしていました。
第二次世界大戦のさなか、ナチスの台頭するドイツで、禁酒法よろしく美術までもが厳しく統制される、今では想像もつかないような抑圧の中で、12歳のエリックは暮らしていたことになります。
そんな中、エリックの書く絵の自由な線に彼の才能を見た美術学校の先生が、禁じられた美術の複製画をこっそり、彼に見せてくれたのです。それがかの不思議な「青い馬の絵」だったのです。
当時の閉塞感は真っ黒な雷雲のように巨大なものであったことでしょう。そこで見たこの青い馬が、少年の目にどれだけ鮮烈に映ったか。
今では齢90近いエリックですが、85歳の時に出版したこの絵本で、次のように語っています。
「まちがった色なんてない。自由な色でかいていい」
あえて現実と異なる色の動物たちを書くことで、表現は何者にも束縛されないという考え方は、情報発信をしていく中で自問自答を繰り返す私達に、勇気を与えてくれるように思います。
えを かく ×3
第一の魅力は絵であり、第二の魅力は詩です。
この絵本の邦訳はアーサー・ビナードという海外出身の翻訳家が行っているのですが、これがとても評判がよく、原文よりも訳文のほうが人気が高いという珍しい例になっています。
エリック・カールの絵本の詩は本作に限らず、非常にシンプルなものが多いですが、本作では尖った攻めの姿勢で意訳がなされています。しかし、上で紹介したようなエリックの哲学がきちんと鮮明に表現されたものになっているため、ここまで評価が高いのでしょう。
まえがきの部分を引用したいと思います。
えを かく こと
それは のびのびと
いきることだ
なにいろで かくか
それを かんがえるのも
とっても だいじ
まちがった いろ?
そんなものは ない
いちばん ぴったりの
いろを ひとり ひとり
じゆうに じぶんで
ずっと さがすものだ
ひとりひとりのカラーを見つけ、自由にのびのびと、しかし自立して探し続けるという姿勢は、情報発信においても非常に大切であると考えます。コンサルを行う場合であれば、これをサポートすることですね。
「かく かく かく」と3回繰り返して言っているのは、自分への戒めであったり、決意のあらわれであったり、なにか指針のようなものを感じますね。
「自分の本当の絵を書く」ことに、あるいはそれを誰かに実現してもらうために、そしてそれを通じて、理想の世界に近づくための指針であるように、私には思えます。
もし興味が湧いたら、ぜひ一度読んでみて下さいね。
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